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Interview

作ったトリックは100以上。ベトナムのマジシャン、Tuさんに迫る

作ったトリックは100以上。ベトナムのマジシャン、Tuさんに迫る

今回より新たに開始した、マジシャンインタビュー記事「Direction of Magician」 当サイトではマジシャンへのインタビュー記事の第1弾として、 筆者が住んでいるベトナムで活躍しているNguyễn Ngọc Túさんにインタビューを行いました。

マジシャンであり、マジッククリエイターでもある彼に、自身の半生とこれからのマジック業界についての意見を伺いました。


 

Nguyễn Ngọc Túさん。31歳。
現在、マジック販売の大手ECサイトを経営するVanishing社で唯一のベトナム人正社員として働いている。 100を超えるオリジナルマジックを考案。Vanishing社のECサイトで販売中。 同サイトのカードマジックの部門では、有名なマジシャンの一人。

彼の作品
https://www.vanishingincmagic.com/magician/Nguyen-Ngoc-Tu/
https://www.vanishingincmagic.com/magician/Creative-Artists/

Tuさんのパーソナリティについて

ーーーよろしくおねがいします!

Tu: よろしくおねがいします。

ーーーでは早速質問していきたいと思います。

ーーー現在、マジシャンとして活躍をされていると思いますが、そもそもマジックを始めたきっかけを教えてください

Tu: はい。マジシャンになられる方々って普通は子供の頃に憧れていた人がいて、それがきっかけで始める人が多いですよね? でも自分はそうじゃないんですよ。
たまたまマジックのレッスンDVDを見て、それを自分でやってみたら、意外と出来るんじゃないかと思ったんです。 練習してみたら「お、自分結構できるのでは!?」となり、センスがあるのかもと思いました。そのため、もうちょっとマジックを続けてみようかなと。
特にスペシャルな理由はないですよ(笑) それが始めたきっかけですね。

ーーーありがとうございます。私はテレビで前田知洋さんのマジックを見たのがきっかけでマジックに興味を持ちました。

Tu: やっぱりそうですよね。そのパターンが多いと思いますよ

ーーーちなみにそのDVDを見たのはおいくつぐらいのときでしたか?

Tu: 22〜23ぐらいのときでした。 他のマジシャンは子供の頃(だいたい小中高ぐらい)からが多いと思いますが、自分が始めたのはそれと比べるとちょっと遅めだと思います。

ーーー実際あなたのトリックを見せていただきましたが、どれも素晴らしくて驚きました。マジックを始めたのが遅めというのが信じられないです。

Tu: ありがとうございます。 元々、私はマジックが好きというよりも、自分の腕を磨くことが好きなんです。 なので、自分のスキルとしてマジックというのが「自分に向いているのではないか?」と思っています。

ーーーなるほど、自分のキャラクターとマジックの相性が良かったんですね。その後は、どうやってスキルを磨いていったのでしょうか?

Tu: DVDを見て練習しました。DVDといっても、ほとんど外国で作られたものですね。 そもそも、ベトナムにはマジックのコンテンツが少ないんですよ。それがベトナム語となると、もうほとんど存在しないんですよね。私も当時は他のマジシャンを全然知らなかったので、外国のものを見て練習するしかない!と思いました。なので、英語のDVDを頑張って見て覚えました。

ーーーマジックを練習した結果、現在大手のマジックサイトであるVanishingにお勤めなわけですが、どのような経緯で入社されたのでしょうか?

Tu: 端的に申し上げると、スカウトされました。私のマジック動画をVanishingの社長が見て、声をかけてもらった形です。

Tu: 私は自分でオリジナルのトリックを作って、売るまでに至りました。 Vanishingの社長が私のマジックを見つけたとき、 「なぜ今まで見つけることが出来なかったんだろう」と悔しがっていたのが印象的でした。

ーーーおお!それはすごいですね。ちなみに、彼はどんな経緯であなたを発見したのですか?

Tu: 私は当時YouTubeに5〜6本のVideoをあげており、それを見た社長にスカウトされました。あげていた動画のうち、どれを見て反応してくれたかまでは分かりません。 ですが、おそらく彼は全ての動画を見てくれたと思います。

Tu: 今は正社員として働いていますが、最初はいわゆる協力者という立場として仕事をしていました。1年ぐらい仕事を続けることで信頼を得られ、今は正社員になっています。

ーーーなるほど。最初から正社員ではなかったのですね。ちなみにその「協力者」と「正社員」というのは具体的にどう違うのでしょうか?

Tu: 協力者というのはVanishingのサイトで物やトリック、いわゆる商品の販売が可能な立場の人です。 Vanishingと私の双方で割合を決めて、売上の中から報酬を得ることが出来ます。マーケティング(例えば広告など)の費用は全て会社が負担してくれます。 正社員になったら、商品の取り分はそのままに、プラスで月給が発生するようになりました。 つまり、商品が売れなくても私は収入を得ることが出来るようになりました。

Tu: とはいえ、ベトナムにはマジシャンが少ないですし、コミュニティも欧米と比べると活発ではありません。技術が高いという評価もなく、世界的に有名なマジシャンも過去いませんでした。 そういった土壌もあり、マジシャンの友達も少ないです。

ーーーもう少し詳しく教えてほしいのですが、会社(Vanishing)でマジックを売るというのは具体的にどういったことをするのでしょうか?

Tu: 年に2回、Vanishing主催の大きなセミナーがあります。イギリスで1回、アメリカで1回。 ある人はトリックの道具を売ったり、解説する本を売ったり、ある人はトリックの種、つまり解説そのものを売ったりしています。そこでお客さんを呼んで、気に入ったものを買っていただきます。お客には、プロのマジシャンもいれば、アマチュアの方もいらっしゃいます。(注:おそらく、日本で言うマジックマーケットの規模が大きい版だと思われます)

Tu: ただ、直近はコロナのせいもあって開催できていません・・・。

Tu: 他には、日常的にVanishingのWebサイトでトリック(解説動画)を売っています。

ーーーありがとうございます。私自身もVanishingをよく利用するのですが、世界的に有名なサイトですよね。会社の規模はどれぐらいなのでしょうか?

Tu: Vanishingの会社全体としては、20人弱ぐらいですね。 私はベトナム人の社員ですが、Vanishingの社員はベトナム人は1人しかいません。
(注:彼はリモートワークでベトナム国内で働いています)

ーーーえっ!そんなに少ないのですか。もっと多いと思っていました。

ーーー(ここで通訳の人もびっくり)そんなに少ない人数で運営されてるんですね!

Tu: 実はそうなんです。マジックの評価をする人や、カスタマーサポートや物流を管理する人など様々な人がいますが、全体の数としてはそんなに多くはないですよ。

Tu: 物流倉庫は大型のものがアメリカとイギリスに1つずつあります。
取り扱っている金額は多いですが、社員は少ないですよ。

Tu: マジック業界の会社はみんなこんなものです。
大手と言われているMurphy’s Magic(マジック業界大手代理店)でも、皆さんが想像しているより多くないと思いますよ。

Tu: ちなみに社員ミーティングは、時差の関係でいつもベトナム時間の夜中に行われます。 私は寝ている時間なので、あまり顔を出せていません(笑)

マジックの業界について

ーーーでは、ここからちょっと質問を変えていこうと思います。今のマジック業界について、Tuさんはどう思いますか?

Tu: この業界は発展するチャンスが少ないと思います。 マジックの大前提として、そもそもトリックは秘密にすることが重要です。なので、多くの人に知られてしまうと良くない。だからこれ以上、私の会社の規模が大きくなることは無いのではないかと思います。

Tu: 加えて、先程も述べましたがベトナムのマジシャンで世界的に有名な人というのは現状いません。マジックの勉強をしてる人も多くないし、私より下の若い世代でも真剣にマジックの練習をしている人は非常に少ないですね。 そもそも、ずっと練習したからといって、上手くなるわけではないと私は考えます。勿論、練習する時間は大事です。ただ、きちんと指導してくれる人がいないと、正確に技術を習得することが出来ないのではないかと思っています。なので、無駄に時間をかけてしまうのも良くないですね。やるのであれば、指導してくれる人についてもらった状態で、たくさん練習するのがベストだと思います。

Tu: また、個人がパッションを持っていても、運が味方をしてくれない場合もあります。これは残念なことではありますが、今のコロナがまさにそうです。ショーをする機会が激減しているので、マジシャンにとっては苦しい時期だと思います。

ーーーなかなか現実的なご意見ですね。コロナの影響も確かにこの業界は大きいと思います。日本でも、かなりのマジシャンが影響を受けているのが現状です。

Tu: だと思います。

Tu: ある日、若い人たちが私に質問をしてきたんです。 「あなたみたいにマジックが上手くなりたいし、オリジナルのトリックもたくさん作りたいです。どうしたらいいですか?」 と。

Tu: 私はやめたほうが良いというアドバイスをしました。なぜなら、マジックの業界はとても狭き門だからです。なので、お勧めはしない。 コロナのような影響が、またいつ起こるかわからない不安もあります。

Tu: 事実、10年前は私と一緒にマジックの仕事をしてる人が何人かいましたが、今はもう誰もしていないです。今この国でマジック一本でお金を稼ぐことは相当難しいと思います。勿論、今もベトナムにマジシャンは何人かはいます。 私は有り難いことにマジックだけで生計を立てられていますが、生活のために副業をする人がほとんどです。

ーーーご自身がマジックでお金を稼ぐことの大変さを知っているからこそのご意見ですね。

Tu: 私はマジックを作るのが好きですが、大勢の人の前でパフォーマンスをするのはあまり好きではありません。彼らの中にはマジックが嫌いな人もたくさんいますからね。 勿論、マジックが好きな人達の前で演じるのは好きですよ。

ーーー私はあなたほどの技量があれば、テレビ出演すれば間違いなく活躍できると思っていますよ。

Tu: 残念ながら今のところ、テレビなどのメディアに出演する予定は無いです(笑) (当サイトのインタビューを受けて頂き、本当にありがとうございます!)

ーーー今のベトナムのマジック市場は、Tuさんから見て小さいと思いますか?それとも大きいと思いますか?

ーーー実は、私は以前行きつけのマジックショップの店長のお願いを聞いて、テンヨー(日本のマジック用品メーカー。有名なものに、マジックテイメントシリーズなどがある https://tenyo.jp/magic/ )にマジックグッズの直取引をベトナムとしてもらえないか、という依頼を出しました。最初は先方も話を色々聞いてくださったのですが、お互い議論を続けた結果、市場がまだまだ小さいことがわかり、その話はなくなってしまいました。 この話を聞いてどう思われますか?

Tu: そうですね・・・そうなるだろうと思いました。
ベトナムのマジックに関するマーケットは大きくないですし、ベトナムで売っているマジック製品は、中国製のものがほとんどです。あなたも見たことがあると思いますが、ベトナムでは有名なブランドの偽物が流通してることも多いんですよね。

ーーーわかります。私は以前、ベトナムでノースフェイスのバッグを買ったことがあるんですが、後でそれが偽物だと分かりました・・・(笑)

Tu: そうなんです。このことから、仮に純正の商品をベトナムに渡した場合、偽物を作られる可能性も高いんですよ。マジックはトリックさえわかれば、偽物はすぐに作れるという特性があり、コピーするのは意外と手間がかかりません。

Tu: なので、マジックメーカーがベトナムと直接取引するのは「市場規模の少なさ」と「コピーされるリスク」の双方から、なかなか難しいでしょう。

ーーーなるほど・・・。まだまだ課題はたくさんありますね。ではTuさんは、そんなベトナムのマジック市場に対してどうなればいいと思いますか?

Tu: 勿論、もっと発展したら良いと思っています! これはマジックに限った話ではなく、どんな業界でも、沢山の人が参加して活発になれば、その分野で凄い人や上手な人が出てきやすくなります。

Tu: ベトナム人の多くは、マジシャンという職業は「食える職業ではない」と思っています。私は、ベトナムのマジックのコミュニティと密接に関わってるわけではないので、詳細までは分かりません。中には生計を立ててる人もいるかもしれませんが、ごくごく僅かでしょう。 実際に私も初対面の人に自分の職業を聞かれたら、普通に正社員のオフィスワーカーですと答えます。マジシャンですと言うと、そこからたくさんの質問が来たり、色々説明するのがややこしくなりますからね。なので、オフィスワーカーと答えています。

Tu: ただし、ベトナム市場にもメリットがあると考えています。

Tu: ベトナム市場は今言ったみたいに、職業として食べていくにはデメリットしか見えていないのが現状です。ただ、ちゃんとマーケティングすれば発展する余地があると思います。つまり、まだまだブルーオーシャンだということです。例えば、欧米のレベルでは全く活躍できないようなレベルの人でも、ベトナムならまだまだ十分に通用する。

Tu: 欧米の市場だと、すでにマジシャンは飽和しているので競争率も高いです。こちらは既に、所謂レッドオーシャンになっています。なので「自分の知名度を上げる」ということ、マジックでお金を儲けるということを考えると、ベトナムの方が遥かににやりやすいと思います。ベトナムでマジシャンになるなら、物価も安いので住みやすいと思いますよ。

ーーーなるほどなるほど。確かに、ベトナムではまだまだマジシャンの数が少ないので、ブームを引き起こすことが出来たら、たくさん仕事が生まれそうな気がしますね。

Tuさんの内面にもう少し迫る

ーーーでは再び、Tuさんのパーソナリティに迫る質問をさせていただきます。

ーーーマジックに関係ない質問ですが、占いとかはするんですか?トランプを扱うことが多いので、他のこともされるのかなと。

Tu: 私はポーカーも占いもしないです。 トランプはマジックの道具としてしか知らないんです。 そもそもルールを知らないので、カードゲームをプレイすることができないんですよね、 意外でしょう(笑)

ーーーなんと!それはたしかに意外でした。ベトナムの人はトランプでギャンブルをすることもあるので、そういったことの経験はあるのかなと思いました。でも、マジシャンらしい解答で自分は好きですよ。

ーーー売ったトリックの中で一番売れたのはどんな種類のマジックですか?

Tu: 全てカードマジックです。私はカードマジック以外にも様々なマジックを演じますが、考案して販売しているのはカードマジックしかありません。

ーーー憧れのマジシャンや、会ってみたいマジシャンはいますか?

Tu: 自分にとってアイドル的な存在と言うか、大きな影響を受けたのは、2人います。 1人はフランス人の、Yoann.F。マジック自体は地味ですが、テクニックの高さが凄い。そのテクニックを尊敬しています。 もう1人はスペイン人の、dani daortiz。こちらはテクニック自体は普遍的なものですが、パフォーマンスが凄い。発想の豊かさが好きです。

ーーーおお!ダニ・ダオルティス!私も好きなマジシャンの一人です。日本でも彼のDVDは売られていますよ。彼の演じるオープントライアンフというトリックを初めて見たとき、私は驚きました。

Tu: 有名ですね。
先程も言いましたが、彼のトリックはそこまで難易度が高くないにも関わらず、起こる現象にインパクトがあります。そのパフォーマンス能力を私はとても尊敬しています。

ーーーマジック以外に好きなことはありますか?

Tu: たくさんあります。特技はマジック以外にないですが・・・趣味はたくさんあります。 まず、心理学が好きですね。あとは・・・折り紙、あとは料理や読書、そして寝ることですかね(笑) 心理学は学べば学ぶほどマジックに応用可能なので、学んでいてとても楽しいです。心理学を身に付けていれば、観客のメンタルや意識を騙しやすくなると思っています。

ーーーこれからやりたいことはありますか?

Tu: 最近はなかなか時間が取れないのですぐ実行はできないのですが・・・もう少し落ち着いたら、チャレンジしたいのは「プログラミング」ですね。

Tu: あと2014-2015は自分の頭がすごく冴えていて、本当にたくさんのマジック(100を超える)を生み出しました。 ただ、最近は月給という形で収入が貰えているので、クリエイティブな作業を怠っています・・・。 ちょっと自分の頭がなまってきているので、まずは脳を活発にさせていきたいですね。 クリエイティブな脳になる準備をしていきたいです。

Tu: とりあえずプログラミングは学びたいので、これから学習していく予定です。

ーーーマジックを勉強中の、日本の学生に言いたいことはありますか?

Tu: 私は人生のバックグラウンドがあまり良くありませんでした。 まず高校を退学しています。ちゃんと勉強をしてこなかったんです。あまり真面目ではなかったですね。 その影響で、今の生活を送るために、普通の人よりも何倍も努力が必要でした。 学生の頃に努力しておかないと、私のように苦労することになると思います。 だからまずは、学生のうちはしっかり勉強をしてほしい。

Tu: ちゃんと勉強していれば、収入も得られる。 なのでもし、マジシャンになれなかったとしても、生きていくことは出来ます。

Tu: 何が言いたいかと言うと、目指すなら、門が狭いことを覚悟してやってほしいということです。私は自分の経験で語っていますが、私の話を聞いて皆さんご自身で判断してもらえたらそれでいいと思います。

Tu: もし、マジックを極めてトップまで上り詰めたら、そこから見える景色は絶対に素晴らしいと思いますし、胸を張って自慢できると思います。 それはとても良いこと。ただし、そこにたどり着くまでは茨の道を進むことになります。これは残念ながら事実だと思います。成功するためには、努力と覚悟は絶対に必要。成功するまでは苦労をする期間があることを理解した上で目指してほしいと思います。

Tu: 私はセンスが良かったのか、有り難いことにたまたまマジックの成長スピードがとても早かった。勿論、その分努力はたくさんしましたが。マジックを始めて2〜3年でオリジナルトリックを考えていました。 ただ、その毎日の努力と上達スピードが「私にとっての普通」だったので、他の人に自分の常識を話すとプレッシャーを与えていないか不安になることも多かったです。 まるで、自分の常識が他人にとって常識であるかのように。 「え、それだけしか練習していないの?」と言ってしまったりとかですね。

Tu: なので、あくまで私の意見は参考程度に聞いてくださいね。

ーーーありがとうございます。経験者だからこそ、伝わる重みを感じました。・・・では最後の質問です。あなたにとってマジックとは何ですか?

Tu: うーん・・・そうですね。私はマジックを始めてから10年ぐらい経つのですが、

最初は趣味、次に情熱、その次はプライド、そして今はその全部

Tu: といったところでしょうか。 DVDを見るところから始めたマジックですが、そのスキルを磨いたおかげで私は色んな人にも出会うことが出来ました。そしてそれは次第に私を私たらしめるパーツになっていきました。今はマジックで生計を立てているので、その全てが当てはまります。

Tu: 私個人にとっては、人生とは「お金や情熱を注ぐことではなく、後の世代に何を残せるか」だと思っています。 今の私に言い換えると、マジックの業界に自分が何を残せるか。

Tu: 残された人が役に立つものを残したい。それが人生の目標です。

Tu: 私にとってマジックは一番好きなもの・・・ではなく、自分の知識・スキルを表現するものだと考えています。

Tu: ある日友達に「お前はマジックじゃなくても成功するんじゃないか?」と言われました。でもそれは違うと思っています。 過去に私は情熱を持たずに仕事をしている人を軽蔑していました。お金を稼ぐために、仕方なく仕事をしている人を愚かだと思っていたのです。 でも時が経つにつれて、愚かなのは自分の方だと気付きました。私はマジックこそが自分の全てだと思っていたのです。自分が年を取ると、色々分かってくることがありますね。

Tu: そう、私は逆に自分からマジックを取ったら、もう「何も残らない」という空っぽの気持ちが生まれたんです。固まって、そこばっかりに集中すると、自分の人生に足りないものが出来るというのに気付きました。

Tu: 人生って例えるなら、世の中にあるものの中から自分がやりたいことを見つける旅だと思っています。 なので、先程伝えた「後世に何を残すか?」を、私自身の目標として見つけました。

Tu: ・・・ただ、もし人生をやり直せるとしたら、マジシャンじゃない人生を歩んでみたいととも思うんです。

Tu: マジシャンの人生はもうすでに経験したので、そうじゃない道に進んでいたらどうなっていたんだろう?というのを最近考えます。そういう経験もしてみたいですね。

Tu: ただ、数年たった後、また今とは違う考えを持っている可能性も十分あります!笑

ーーーたくさんの深みのあるお話が聞けて、良かったです。この度はインタビューに答えていただき、ありがとうございました!!

編集後記

彼と初めて出会ったのは、2020年12月。 この記事を書いているのが3月なのでもう4ヶ月前になります。 初めて見せてもらったカードマジックの数々は眼を見張るものばかりで、テレビで実際にプロの方がやっているようなレベルのものをたくさん見せて頂きました。「ベトナムにこんなにすごいマジシャンがいたなんて!」私がその凄さにあっけにとられていると、「興味のあるトリックがあれば、いつでも教えるから言ってね!」と快く言ってくれて、実際に手の動かし方などを丁寧に教えてくれました。

上記でも触れていますが、彼はあまり大勢の人前でパフォーマンスするのが好きなタイプではありません。自分の目の届く範囲の人に、クロースアップマジックを見せるのが好きなようです。マジシャンとしては損をしている部分もあるかもしれませんが、私は彼のそんな控えめな所も好きです。

インタビューの時も発言一つ一つを「これを言ったら他のマジシャンに失礼にならないかな・・・」と気にしながら言葉を選んでくれました。彼の仕事に関わることもあり、ここでは書けない話も色々ありましたが、話してもらった内容は自分の会社と世の中のマジシャンに対してとても敬意を感じました。

インタビューの中で厳しめの意見もありました。安易に夢を見せず、きちんとマジシャンという職業を考えてほしいという彼の優しさだと受け取って頂けたら幸いです。

彼はアメリカの企業で働いていることもあり、英語も堪能です。しかし、インタビューでは思ったとおりに発言してほしい!との考えから、女性の友人であるNhungさんに通訳として入ってもらいました。私は彼との交流がありましたが、知っている内容もあえて一から質問をさせていただきました。その結果、Nhungさんは私以上に彼のエピソードに心打たれ、彼の発する言葉に毎回大きくリアクションをしていたのが印象的でした。

このインタビュー中、合間合間でNhungさんのために、マジックのパフォーマンスを披露して頂きました(こちらが頼んでないのに!) ホスピタリティに溢れた彼のキャラクターに、さらに好感を持ちました。

彼の作品はVanishingで実際に閲覧することが出来ます。 興味を持った方はぜひアクセスしてみてください!

彼の作品
https://www.vanishingincmagic.com/magician/Nguyen-Ngoc-Tu/
https://www.vanishingincmagic.com/magician/Creative-Artists/

これからも、このサイトでマジシャンの方々のインタビュー記事を掲載できればと思っています。よろしくお願いいたします。

Special Thanks!!

Nhungさん
筆者の友人で、当インタビューの通訳を担当。ベトナム人。ベトナム語と日本語、そして英語も話せるトリリンガル。日系企業で通訳として勤めている。活動休止してしまったけど、日本のアイドル「嵐」の大ファン。