カードマジックの一つであるアンビシャスカード。 今日はその魅力にとりつかれた一人の人間の話を聞いてください。
世の中には沢山のカードマジックがありますが、筆者がその中でも一際大好きなものの中に 「アンビシャスカード」というのがあります。
これは、デックの真ん中に入れたはずのカードが、指を鳴らすと一番上に上がってくるというものです。
この記事を読んでいる方も、きっとご存じの方も多いのではないかと思います。
このマジックとの出会いは、筆者が敬愛してやまないマジシャン、前田知洋(まえだともひろ)さんのマジックをテレビで拝見したのがきっかけでした。
ゲストの方にサインをしてもらった「世界に一つしかないカード」が、デックの真ん中に入れたはずなのに指を鳴らすと一番上に上がってきます。 当時の私は起こってる現象の不思議さがたまらなく、すぐに目を奪われました。
テレビの中の前田さんは、「指を鳴らさないと上がってこないんですよ」といいながら、鳴らす前のカードを一度表に向け、確かに違うことを提示します。 そしてその後、指を鳴らすと先程真ん中に入れたカードに入れ替わっているのです。本当に不思議でたまりませんでした。
このマジックを目にした筆者は、「世の中にこんな不思議な現象があるのか!」という心境になりました。
今までマジックというものを勿論見たことがありましたが、その多くはステージマジックが大半でした。
現象の不思議さに驚きはしたものの「きっとどこかに仕掛けがあるんだろう」という心理も働き、
凄い!けども、仕掛けがあるのはわかる!というちょっと斜に構えた見方をしている子供でした。
(今思えばかなり生意気な子供だったな、と思います)
しかし、前田さんのされているマジックはいわゆるクロースアップマジックという観客のすぐ眼の前で現象がおこるというとても贅沢で、 それゆえに不思議さも一際大きくなるものでした。
このマジックができるようになりたい・・・!
筆者はいつの間にかトランプを買いに走り、マジックの練習をするようになります。
当時、一般人がするカードマジックといえば、いわゆる”セルフワーキング”と呼ばれる手順を覚えれば誰にでもできるものが主流でした。 でも、それは逆に演じた際に「あ、それ知ってる」「自分もそれできるよ」と言われる可能性が高く、 前田さんのマジックを見たときに自分が感じた「不思議さと驚き」を人に与えるには不十分と考えていました。
実際にセルフワーキングの中でも不思議なものは数多くあるのですが、
その時はまだ知識も浅く、ある意味セルフワーキングトリックを舐めている自分がいました。
(本当にお恥ずかしい限りです)
「練習しないと習得できないマジックこそ至高だ!」というスライハンド至上主義のような考えになり、 様々なスライハンドのテクニックを練習するようになりました。
少し話は変わりますが、マジックを演じる際に有名な「サーストンの三原則」というのをご存知でしょうか?
これは、ハワード・サーストン(Howard Thurston)というマジシャンが提唱したと言われている(が実際に彼が言った証拠はなにもない) ルールで、マジックを演じる際には以下の3つを守るようにと言われているものです。
1. マジックを演じる際に、今から何が起こるかをあらかじめ言ってはいけない
2. 同じ現象のマジックを繰り返し演じてはいけない
3. 種明かしをしてはいけない
確かにこのルールを破ってしまうと、観客が受ける不思議さや意外性といったものは 効果が薄れてしまうのはなんとなくおわかりいただけるのではないかと思います。
しかしなんと、アンビシャスカードはこの3つのうち、例外的に最初の2つを破っているマジックになります。 正確には、手順や手法を色々と変えながら「一番上に上がる」という現象をうまいこと演じるわけですが、 それでも観客は2回目以降のパフォーマンスについて「今から何が起こるか?」を理解した上でこのマジックに臨むのです。 でも、やっぱり不思議な現象が起こるのです。
世界仰天ニュースという日テレ系列のバラエティ番組に過去、前田さんが何度か出演なさったことがあります。 その際には前田さんは、毎回新しいマジックを披露されるわけなのですが、このアンビシャスカードだけは毎回演じてらっしゃいました。
その際に番組MCでもある元SMAPの中居正広さんは 「何回見てもわからない!」 という発言を何度も何度もなさっていました。
現象がわかっているのにタネが見破れず、何度も不思議に感じる。 このマジックの魅力を、自分も中居さんと同じようにテレビの前で感じていました。
時は流れ、筆者はアンビシャスカードの仕組みと演じる方法を勉強し、そのパフォーマンスができるようになりました。
今でも毎日練習するマジックで、一番お気に入りのパフォーマンスです。 自分でルーティーンもアレンジし、身近な人達に驚きを与えられるようになりました。
しかしある日、こんな質問を受けます。
「なぜ、カードは1番上に上がってくるの?」
最初、筆者はこの質問の意味をタネをきいているものだと勘違いしていました。
(実際に、そうだった方も何人もいらっしゃいましたが)
彼が言いたかったのは
「なぜこのマジックではカードが一番上にあがろうとするのですか?」
というトリックの理由付けの部分のことでした。 ここで、自分はプロのマジシャンの凄さというものに気付くことになります。
アンビシャスカードは、仕掛けのトランプを使っていない証明として、 上に上がるターゲットとなったカードにサインをしてもらうことがよくあります。
先程紹介した世界仰天ニュースでも、前田さんがスタジオのゲストの方にサインを求め
「ちなみに以前、トランプの○○のカードにサインをしたことってございますか?」
「いいえ、ないです」
「ということは、これは世界に一枚だけのカードですね!」
というやり取りが、ある種の様式美として定着していました。
(中居さんもゲストの方がサインをする時、「今日はあのやり取りやらないの?」と前田さんに質問を投げかける場面がありました笑)
当時の自分は、このサインをするという動作を単なる「仕掛けなし」と「カードの唯一性が担保された」ことの裏付けのためだと思っていました。 実際にそのとおりではあるのですが、これにはもう一つ重要な意味がありました。
何度かパフォーマンスをした前田さんは、カードが上がってくる理由をゲストの皆さんに説明します
「何故このようなことが起こるかと言いますと、○○さん(サインしてくれた人)が指を鳴らすと芸能界で常にトップに君臨することを暗示しています」
(言い方は場合によって変わりますが、概ねこの様な意味だったかと思います)
その言葉を受け取ったゲストの方々は、ある種照れたような表情をしたり、「良い手品ですね〜!」とリアクションをしたり様々でした。 共通しているのは、その説明によってみなさんが喜んでおられたということ。
サインをしてない状態でこの説明をすると、説得力に欠けてしまいます。 しかし、サインをすることによって、パフォーマンスを見ている人間にはそのマジックが 特別な瞬間 になるのです。
「こんなに素敵なマジックはない!」 と、私は時を経てもう一度このマジックの素晴らしさに気付くことになりました。
自分自身がそうだったのですが、マジックは普通には起こらないであろう不思議な現象が魅力の一つです。 しかしその不思議さだけでなく、パフォーマンスに参加している観客が幸せな気分になることも、 もう一つの魅力なのではないかと感じました。
私自身、プロのマジシャンでないのに何を偉そうにペラペラと喋っているんだという話ですが・・・。
しかし、マジックをやりたい!というモチベーションは、 誰かを驚かしたい・喜ばせたい・笑わせたい、という思いが原動力になってるのではないかと思います。 少なくとも筆者はそうです。
アマチュアであったとしてもマジックをやる以上、観客の方に「見れてよかった」と思ってもらえるようなパフォーマンスを心がけたいと思っています。 それを、アンビシャスカードを始めとした、自分の好きなマジックで出来たら幸せなことではないかとも思います。
これからも、この気持ちをモチベーションにマジックの練習をしていきたい、そう思うこの頃です。
前田知洋さんは、アンビシャスカード以外にも沢山のマジックをレパートリーにお持ちです。
以前、TVの番組で 「マジックのレパートリーというのは料理に似ていて、材料となる技法やテクニックを組み合わせることで様々なパフォーマンスが生まれる」 ということを語っておられました。レパートリーは何百、何千にも及ぶとか・・・! 数々のオリジナリティあふれるマジックも、たくさんTVで演じてらっしゃいました。
今、そんな前田さんが「オリジナルトリックを創作するレッスン」というマガジンをnoteで執筆しておられます。 有料コンテンツにはなってしまいますが、大変読み応えがあり、わかりやすい解説で我々にマジックの本質をおしえてくださってます。 筆者も購読して読んでいます(笑)。オリジナルトリックを作ってみたい方は、ご覧になってみてはいかがでしょうか?
オリジナルのトリックを創作するレッスン - 前田知洋 - note
https://note.com/maeda01/m/m6e769b7116b9
有料記事以外にも、お悩み相談室やマジックが上達する秘訣、前田さんの人生に起きたちょっとした事件など、 マジシャンでなくとも読み応えのあるコンテンツがたくさんあります。 そちらは無料でご覧になれますので、よければご覧になってみてください。 前田さんの文章、かなりスラスラ読みやすく、文才もあったんだなと筆者驚いております・・・!
前田知洋の種明かし、またはメソッド - note
https://note.com/maeda01/m/mc822bbbd1b71